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ストラヴィンスキーのピアノ曲(とりあえず...)

ゼンオンで出版しているストラヴィンスキーのピアノ作品について、前回の《ピアノ・ラグミュージック》に引き続き、今回は《11楽器のためのラグタイム》(PP-380、商品名は「ラグタイム」ですが、残念ながら既にカタログから落ちてしまっています)です。

 

この《ラグタイム》はタイトルの通り、もともと11の楽器編成の小オーケストラのために1918年に書かれた作品で、1920年に初演、同年にJ.&W. チェスターから出版されています。

 

11楽器というのは次の通り。

フルート、クラリネット、2本のホルン、トロンボーン、以上が管楽器で、打楽器がbass drum, snare drum, side drum, cymbals、そしてツィンバロン、2挺のヴァイオリンとヴィオラ、そしてコントラバス。(チェロは含まれません)

 

ツィンバロンというのは、ハンガリーの民族楽器です(ダルシマーと呼んでいる地域の楽器も基本構造は同じです)。共鳴箱に弦が張ってあり、特有の撥で弦をたたいて演奏します。ピアノのご先祖にあたる楽器、とも言われています。

 

曲は短い前奏に続けて、ケークウォーク風の主要な主題をそのツィンバロンが提示して始まります。

全体にラグタイム風な雰囲気をもつ曲ですが、やはりストラヴィンスキーらしいひねった展開を見せていきます。途中、打楽器でチャールストン風なリズムが刻まれたりもします(--あいにくピアノ版ではこの打楽器パートのリズム部分は編曲に取り入れられていません--)。

この作品をピアノ・ソロにアレンジした楽譜がPPで出版されていました。そして表紙はチェスター版と同じく、ピカソがひと筆書きで描いた二人の楽師の絵がそのサインとともに掲載されていました

 

楽譜面はシンプルに見えますが、演奏してみると、なかなか難しいようです。というわけでやはり上級者向きのピアノ曲になるでしょう。

また、この曲を単にピアノ曲として演奏しても全くつまらない音楽にしかならないでしょう。これは、上記の11楽器のアンサンブル(小オーケストラ)による原曲に聞かれる、楽器の固有の音色や様々な演奏法が組み合わせられることによって変化していくストラヴィンスキーならではの素晴らしいオーケストレーション(楽器法)を念頭に、それをピアノの上でも再現するように演奏しなければ、なんの面白味もない曲にしか聞こえないでしょう。

 

余談ながら、この1910年後半から20年代にかけてのストラヴィンスキーのラグタイム・ジャズに向けられた関心は、後の1940年代には、その当時に演奏されていた実際のジャズのスタイルに向けられ、その影響による作品がいくつか書かれています。

その中の一曲が、ピアノのための《タンゴ》です。これは数年後に逆に小オーケストラのために編曲されましたが、興味深いのは、その《タンゴ》の主要主題が、その編成の中でクラシック音楽では特殊な楽器であるギターの独奏によって提示される、という点です。これが、《ラグタイム》の主題が編成の中で特殊な楽器であるツィンバロンによって演奏されることと関連性が感じられ、ストラヴィンスキーが大衆音楽のカテゴリーで作品を書くときに考えていたコンセプトの一端を垣間見るようで、なかなか面白いです。

 

[nanneko_bu]