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ストラヴィンスキーのピアノ作品(まずは...)

ストラヴィンスキーのオーケストラ曲のオーケストラ・スコアを出版したい気持ちはあるけれども、出版はしばらく難しいだろう。

 

しかし、ご存じない方には思いもよらないようなお知らせだが、意外にも、ストラヴィンスキーのピアノのための作品は、全音でいくつか出版がある。

ピアノピース(PP)で3点、ピアノライブラリーで1点ある。

いずれもイギリスの出版社 J.& W. チェスターが出版している作品で、出版の許諾を得て日本版として出しているものだが、ピアノライブラリーで出ている作品は、やさしい初級者向けのレベルで書かれた作品。またPPで出ている内の2点(2曲)はチョー難曲の上級者レベルの作品で、残る1曲は左記のライブラリーの作品と同じくらいのレベルの、やさしい作品である。

 

まずは、この中で最上級の難曲である、《ピアノ・ラグミュージック》(PP-379)をご紹介。

表題の上に、アルトゥール・ルービンシュタインに捧ぐ、と書いてある。ピアノのヴィルトゥオーソとして有名な、ルービンシュタインです。彼が演奏することを想定してストラヴィンスキーはこの曲を書いたらしい。そりゃあ弾くのが難しい曲なわけだ。

ストラヴィンスキーは、第一次大戦後にヨーロッパからアメリカに移ることになるが、それ以前この当時からジャズ(=ラグタイム)に大変興味を持っていたらしく、アメリカに演奏旅行した当時の朋友のひとりである指揮者のエルネスト・アンセルメからジャズのレコード(もちろんSP盤のこと)をお土産にもらったりしていたそう。もちろん入手できる当時のジャズのピース楽譜もいくつか持っていたと思われ、そういう影響下でこの作品は書かれている。

変拍子が続くのはもちろん、途中からは小節線もなくなってしまい、ストラヴィンスキー流のブロークン・リズム(ポリ・リズム)と不協和音が続く。最後はその永遠に続くようなシンコペーションが中空に散ってしまうかのようにして、突然終わる。

1919年の作曲。

この年号で多くの人が気がつくのが、《火の鳥》のスタンダードな組曲版が書かれた年であること。そして《兵士の物語》が完成された年であること。《兵士》もジャズからの影響が色濃く、当時ストラヴィンスキーが相当ジャズに入れ込んでいたことが窺えます。

全8ページの冷たく乾いた打弦楽器のためのラグタイム・ジャズ。

CDは、いろんな演奏家のものが出ていて、どれもそれなりに聴きごたえある演奏になっているので、探してみてください。あまり切れ味のよくない演奏も、それなりに...面白いです。

ストラヴィンスキー自身も1934年にレコード録音(もちろん世界初録音)していて、CDにも何種類かのレーベルで復刻されているので、ぜひ機会があったら一度は聴くように。ストラヴィンスキーのピアノの腕前、大したものです。味わい深い演奏と言えるほどの、余裕のテクニックで弾いています。

 

かの某ピアニスト先生は学生時代に、全音のピアノピースから安価で出ているストラヴィンスキーを、大変重宝で貴重な楽譜として、演奏に研究に使われていたそうです。

 

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